- Kaori Nakao
実印と一緒に父からもらったもの
19歳で免許を取ってから、家の車を借りて乗っていたが1ヶ月で事故を起こしてしまった。物損事故で済んだが、初めての事故で壊れた車を見て足が震えてのを覚えている。その時のお巡りさんが「初めての事故で亡くなったり、人を轢いてしまったりする人もいるんだよ。今回は車を直せば済むことだから、本当にラッキーだったと思いなさいよ」と言われた。心からそうだなと思って、家に帰って父に詫びて直してもらおうと思っていたら、、、父は自分のお金で直して返せと言うのだ。学生でバイトしかしていない私に。しかし、車は父のもので借りたものだし、仕方がないかと納得したものの、お金がない。父にお金を貸してくれと言ってもお金も貸してくれない。仕方がないので、バイト先の先輩に借りて、バイト代から何ヶ月かかけてなんとか全額返済をした。 何事にもシンプルな考えで、大好きだった父から言われた言葉は私には重い。
車に乗ると言うことは、車代、ガソリン代、保険代、駐車場代それらを全て払い、事故が起きても自己責任が取れないようでは乗る資格無し。と父からは言われた。
悔しいけど正論だと思った。
そんな私が、短大を卒業して仕事に就いて一番最初に欲しかったのが、高校生からのめり込んでいたウィンドサーフィンと車だった。ウィンドサーフィンは、学生でお金がなかったので、バイトして友だちと二人で1艇を共有していた。早く自分だけのボードが欲しくて、すぐにローンを組んで新しいものを買った。しかし、車が無いと運べない。親の車を「借りて乗る」のはもう嫌だったので(人の車なので肩身が狭い)早く自分の車が欲しかった。
そんな時、先輩がアウディの古い車(その当時で20年前と言っていた!!)を2万円で買わないか?と言う話があるぞ!と教えてくれた。それならバイトすれば買えると飛びついた。
ワクワクして待っている間に、私の誕生日が来た。20歳の誕生日。父は、中国に行った時に買っておいた石で私の下の名前で「薫」と言う実印を用意してプレゼントしてくれた。この先、車や家を買う時に実印というものが必要になるからと。 車が届き、様々な手続きの際、この実印を押した。とても大人になった気分だった。
そこから車を買い替える度に、この実印を押し、父の言葉を思い出している。
車が好きで、いろんな車に乗った。マニュアル車が好きだったが、どうしても乗ってみたくて買った「ホンダ シティカブリオレ」はオートマだった。オープンにして走ったりとご機嫌だったが、どうしてもマニュアルに乗りたくなって2年弱で手放してしまった。
それからもいろいろ乗ったが、今はまたマニュアル車に乗っている。
昨今のご年配の方々の車の事故を見て思うのは、マニュアルなら踏み間違えで起きる事故は減るのでは無いかと。私も50歳半ばになり、昔と比べると運転にしっかり集中していないと怖いな、と思うことがある。マニュアルを乗り続けてみて、危ないなと感じる時がきたら免許返納だな。
20歳のプレゼントの実印と共に父が教えてくれた、車に乗るなら自己責任が取れないとダメだという言葉は、走る凶器に乗るものとして今も新鮮に心の中にある言葉である。 そして、その言葉は、車以外のことにも通ずるものがあり、肝に銘じて生きて来た気がする。